はじめに
国際アルツハイマー病協会(Alzheimer's Disease International: ADI)によると、認知症患者の数は世界的に急増しており、2050年には1億5,200万人に達すると予測されています [1] 。認知症には、血管性認知症、アルツハイマー病(AD)、複数の原因が混在する混合型認知症、レビー小体型認知症など、多くのサブタイプがあります。一般的でない原因としては、アルコール依存症、脳損傷、感染症、前頭側頭型変性症に伴う認知症があります [2]。認知症には12の危険因子があり、これらの危険因子を合わせると、全世界の認知症のかなりの部分(約40%)を占めており、理論的には認知症の発症を遅らせたり、予防したりすることが可能です[3]。認知症に対する効果的な治療法はまだ確立されていないため、危険因子を特定し修正することは、認知症の発生率を減少させる上で非常に重要な戦略です[1]。
糖尿病、神経精神症状、食事は、認知症の最も重要な3つの修正可能な危険因子として挙げられています[3] 。ロッテルダム研究では、認知症のリスクが高いのは、食事中のコレステロール、飽和脂肪、総脂肪、コレステロールの摂取量が多いためであり、魚の摂取量とは負の相関があるとされています[4] 。欧米諸国では、地中海食(豆類、果物、野菜、オリーブ油の割合が高く、魚は適量、肉や乳製品の摂取が少ない)が認知症予防に有効であることが証明されています [5]。アジアでは、久山町研究が、大豆製品、乳製品、野菜の摂取量が多く、米の摂取量が少ない食事が、日本人高齢者の認知症リスクを低下させることを示しています[6]。上記の知見と同様に、台湾における認知症の横断的調査では、魚、野菜、お茶、コーヒーの摂取が認知症に対する潜在的な効果があることが示されました[7]。
ベジタリアン食は、体重と血糖値のコントロールを改善し、血圧と血中脂質を低下させ、動脈硬化を逆転させるなど、心血管と代謝に大きな効果があることが実証されています[8]。今回紹介する論文の著者らの以前の研究でも、台湾のベジタリアン食と動脈硬化、糖尿病、脳卒中、うつ病などの心代謝リスク因子との間に負の相関関係があることが示されており [9,10,11]、これらの心代謝リスク因子はすべて認知症の素因となります。